内田 大達さん 抄録

パーキンソン病の病理学的検討

氏名:内田 大達
配属先:神経内科学講座   指導教官:木村 成志

  1. 背景
    パーキンソン病は1817年,イギリスの開業医であり地質学者であったJames Parkinson(1755-1824)によって最初の症例が報告された.以後,中脳黒質の変性に伴うドパミン代謝障害とも関連が次第に解明され1つの疾患単位として確立する.すなわちパーキンソン病は振戦,固縮,無動,姿勢反射異常を主症状とし,中高年齢者に好発,病理学的には黒質線条体ドパミン性神経細胞の変性ならびにレビー小体の出現が特徴である.パーキンソン病ではその経過中に,運動症状以外に嗅覚障害,睡眠障害,認知機能障害,精神症状,うつ状態,異常感覚,自律神経症状が出現する.これらは,ノルアドレナリン系,セロトニン系,アセチルコリン系などの神経伝達物質の異常が関与している.パーキンソン病は遺伝的素因,環境因子の影響を受け,中脳黒質におけるミトコンドリア機能異常および酸化的ストレスが関与し,発症すると考えられているが,その発症機序は不明で,特定疾患に認定されている.
    わが国のPDの有病率は10万人に約150人といわれており,アルツハイマー病に次いで2番目に多い神経変性疾患である.高齢化により,今後より発生頻度は増加すると思われる.よって臨床の現場で経験することが多く,症状や病態を根本から理解することが大切である.
  2. 目的
    パーキンソン病の剖検脳を用いてパラフィン切片を作成し,病理学的検討を行い,パーキンソン病の病態を理解する.
  3. 方法
    パーキンソン病の剖検脳を用いてパラフィン切片を作成し,HE染色および免疫染色を行った.
    免疫染色で用いた1次抗体を示す.

    • α-synuclein
       (LB509,monoclonal antibody,1:50)
    • Beta-Amyloid
      (4G8,monoclonal antibody, 1:1000)
    • paired helical filament(PHF)-tau
        (AT8,monoclonal antibody,1:30)
  4. 結果 
    肉眼所見では,前頭葉円蓋部と側頭葉全部の萎縮,黒質と青斑核の色素脱失を認めた.組織学的には,黒質,青斑核,扁桃体,側頭葉に神経細胞脱落を認めた.また,迷走神経背側核,青斑核,黒質,扁桃体,海馬傍回,下側頭回,帯状回にレビー小体を認めた(図1).これらのレビー小体は,α-synucleinに陽性であった(図2). Beta-Amyloid染色では,側頭葉と帯状回に変性した軸索を伴う老人斑(図3)が散在し,PHF-tau染色では,海馬から側頭葉にかけて神経原線維(図4)を認めた.
  5. 考察
    レビー小体はパーキンソン病の症状の進行とともに脳幹,大脳辺縁系,大脳皮質の順で拡がっていくことが報告されている.本症例はパーキンソン病の病理分類では,Braak stage 4に相当した.さらに,DLB consensus guidelineのレビー小体スコアでは,6点で辺縁系型に相当した.
    また,本症例では老人斑や神経原線維変化が認められたが,主に側頭葉の内側部のみでしか確認できなかったためアルツハイマー病の合併は否定された.
  6. 感想

    今回の研究室配属で,3年次のチュートリアルコースで授業を受けて以来興味のあった神経内科で8週間研究ができたことはとてもいい経験になりました.指導教官の木村先生はとてつもなく熱い先生で,先生のお話を聞く度にモチベーションが上がり,研究に打ち込むことができました.また指導教官以外の先生方も面倒を見てくださったおかげでELISAやウエスタンブロッドなどの実験手技も身につけることができました.神経内科の医局員の方は松原教授をはじめ,とても親身な方が多く,発表会の予演会では1時間以上もの時間をかけてアドバイスをしてくださり,当日も多くの医局員の方が見に来てくださり,とてもうれしかったです.


    最後に,今回の研究室配属で指導をしてくださった木村先生をはじめ,いろいろと指導をしてくださった神経内科の皆様,企画運営をしてくださった先生方,学務課の皆様,研究室配属実行委員の同級生,すべての人に感謝しています.

    ありがとうございました.

図1 HE染色
図2 免疫染色(α-synuclein)
図3 免疫染色(Beta-Amyloid)
図4 免疫染色(PHF-tau)

研究室配属を振り返って

松原先生、木村先生をはじめ医局の皆様には、大変お世話になりました。
神経内科はとてもアットホームな雰囲気で、毎日楽しく研究に励むことができました。

本当にありがとうございました。

一番の思い出は、神経内科独自の敢闘賞をいただいたことです。
後に研究室配属で神経内科を選んでよかったなと思いました。

4年 内田 大達